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ヨセミテ エルキャプ ド敗退記 後編 AN#10

2024-04-09 (ANJUブログ)



後編です。前編はこちら。補足的な番外編はこちら。

DAY9
昨日、ボロボロではあったがなんとかフリーブラストを終え、安堵の3人。全ピッチでエイドでもフリーライダーがどんなものか自分の目で見てみたい。ということで、4日後にGO UPを決めた。

この日はCookie Cliffに行き、私はTwilight Zone 5.10dをやろうと思ったがアプローチピッチの5.9の時点でもう登る気力が出ない。心身の疲れを感じて、私は結局登らず…。

DAY10、DAY11
GO UPに向けて準備の日。
食料調達、荷物準備等。 キャンプ生活ではなかなかありつけない牛乳を購入。

みんなで回し飲み。


からの、牛乳使った贅沢パスタ。


ギアはこんな感じ+80mダイナミックロープ、80mスタティックロープ、水は45L、食糧は朝昼晩5食分、寝具に防寒具等々。

3往復くらいしてホールバッグと中身をそれぞれ取り付き地点まで運ぶ。

DAY12
今日は、昨日運んだホールバッグを荷上げして1ピッチだけ登ってLung Ledgeで1泊予定。荷上げ渋滞があるとか耳にしたので、早起きして5:00に荷上げ開始。もちろん1番乗り。だけど、後ろから1組やってきて、抜かさせないぞ!と身構えるも、空荷で上を目指す人たちだったのでもちろん譲った。


野焼きで幻想的にも見えるエルキャプの森。


昼前にはHeart Ledges到着。
今日はあと1ピッチしか登らんし、のんびりしよーぜって昼寝をかます。

10ピッチ目(フリーブラストの続き) 5.11c~5.10b

エイドも交えて越えていく。


とりあえず無事にフリーライダーに取り付けた祝いのウィンナーをボイル。全力でご褒美を用意しないとやっていけない!

DAY13
昨日は荷上げだけの日だったので、実質的な実働は今日から。
まずはあさこまんがサクッと普通にめっちゃ悪い4thを登る。

11ピッチ目 5.11d~5.9R ホローフレーク
私の番。というか、ワイド要員としてようやく役に立つ機会。超絶ランナウトと悪名高いHollow Flake。しかし、私たちは安全第一でキャメの#7を持参したので怖いもの無し!


怖いもの無しと言いながら、そもそもトラバースがうまくできずテンション、その後のクライムダウンのレイバックはヨレる前に爆速でこなして、フレークに入るためにさらにトラバース。しかし、トラバースでまた落ちるも、とりあえず振り子でホローフレークに入っちゃう…。 気を取り直して、ここからは慎重にワイドを登っていく。 最初は6番サイズがずっと続く。クライムダウンした分、ビレイヤーと同じ高さまで登ってくるとそこからは7番サイズ。7番のカムなんてなかった先人たち、そして今も強い人らは当たり前のようにここから約20mノープロで超えてゆく。7番を持ってしても、ちょっと悪いなと感じる5.9。果たして次ここにくる時、これをノープロで余裕で越えられるだけのメンタルを持ち合わせているだろうか…。

写真を撮る余裕がなく、しばらく写真なしが続きます。

12ピッチ目 5.7~5.10a
あかねちゃんが安定し登りで越えていくが、5.10aがどうみても5.10aではない笑。フリーブラストの時点からしっかりと感じてはいたが、やはり、日本のショートルートのグレード感とはかけ離れている。そして何より1ピッチが長い。30〜70mある。

13ピッチ目① 5.10c
あさこまんが着実に越えていく。
私たちは、サラテの13ピッチ目の終了点まで行く。

13ピッチ目②  5.10a ~5.10d
選手変わらずあさこまんが、終了点からロープを垂らして少し下まで下降。フリーライダーのラインである5.10aのトラバースと5.10dのシンハンドを登ってモンスターオフィズスの支点まで登る。

荷物はサラテ13ピッチ目の終了点に残置。モンスターオフィズスでは、あかねちゃんが荷物番、あさこまんがビレイヤー、私がクライマーとなり、登り始めてからは全員バラバラの位置関係になる。

14ピッチ目 5.11a モンスターオフィズス
ようやくフリーライダー前半の核心とも言える、そして何より私がエルキャプにやってきた最大の目的である、モンスターオフィズスのピッチだ。60m続く薄かぶりのワイドクラック。どう見ても悪そうだ。

緊張しながら登る準備をしていると、茜ちゃんの「あっ」という声と、金属音、そして「ローーック」という叫び声が聞こえた。

ATCの安環カラビナがセルフと干渉して外れて落ちてしまったとのこと。

すでにエルキャプに圧倒され尽くしている私は、正直この不吉な出来事に震え上がった。何か悪い予兆なんじゃないか…?悪いイメージで頭が埋め作れた。

弱々な気持ちで登り始めたが、やはりワイドに入る前にまずテンション。結局ワイドに入るのが悪くてエイドになってしまった。入ってからはそんなに悪くもなく、ひたすら無心で登るだけだろうと思っていた…が、実際は思うように登れない難しさ。尚且つ目の前の6番をずらしながら進んでいくので、登れば登るほど万が一6番が外れたら何m落ちるんだろう…といういつもなら考えない不安で頭がいっぱいになってしまう。とにかく時間をかけて、時々エイドもテンションもしながら、トップアウトだけを目指して進んでいく。が、60mはあまりにも長い。高かった太陽も、どんどん傾いていく。2時間か、あるいは3時間くらいモンスターオフィズスの中にいた。ようやく、クラックの終わりが見えてきた。が、もう当たりは暗くなってきている。最後のスラブに出た時には真っ暗だった。その時ようやく、ヘッデンがなく、スラブに走る細いクラックに使えるカムもなく、終了点の場所も定かではない、という絶望的な状況を理解した。そしてビレイヤーの声もとっくに聞こえない距離に来ていた。

頭の中がぐるぐるした。

自分が弱すぎて、どうしようなく弱くて、2年間ワイドクラックだけをやってきたのに信じられないくらい何もかも弱くて。

でも絶望していても仕方がない。とりあえずスマホを口に咥えて手元を照らしながら6番で支点を作りセルフを取った。なんとも不幸なことに、慌てて支点を作ったものだから6番がスタックしてしまった。でも、とりあえず、みんなに状況を伝えるために、ポケットからスマホを取り出してグループ通話を開始した。(なんて便利な時代!!!)そして、ビレイヤーのあさこまんにユマールで上がってきてもらうことになった。あさこまんを待つ30分ほどの時間の記憶はほとんどないが、申し訳なさを筆頭にいろんな感情に飲み込まれていたんだろう。あさこまんがやってきた時、「何もできなかった」と泣いてしまった。

そのまま、あさこまんがスラブを登ってくれた。どうしても回収できない6番を今夜回収することは一度諦め、私も終了点までいき、荷揚げ開始。荷物と茜ちゃんがやってきて、ようやく3人が揃った。5時間ぶりくらいの再会、、、。あさこまんは超長時間のビレイの寒さから、体調を崩し始めていた。本当に私が時間をかけすぎてしまったことが申し訳なくてしょうがなかった。ちなみにこの時すでに24時くらい…。

15ピッチ目
寝る予定のアルコーブまであと1ピッチ、というタイミングで、隣のサラテのラインをエイドで登ってきたパーティが現れた。彼らが「6番持ってる?」と聞いてくる。「そりゃあもちろん持ってるけど…」と答えると、「6番を貸してくれ、それで僕らが登ったらロープをfixしてあげるよ」とのこと!お言葉に甘えて6番を貸してfixしてもらい、ユマールで上がる。

長すぎる実働1日目、ようやくビバークポイントに到着。初日でこのボロボロさ。私のせいで、我々の目標から「トップアウト」はほとんど消えてしまった。スタックしたままの6番のことも、明日以降のプランも、明日の朝考えようという結論になり、夕飯を食べてすぐに眠った。深夜1時半は回っていただろう。

ちなみに、ここで2個持ってきたうちの大容量の方のモバイルバッテリーの故障が発覚。小さいの1個で残りの日数3人分の充電を賄わなければならないというなかなか絶望的な状況でもあった。

DAY14
7時半くらいに起床。とりあえず朝食を食べて、今後のプランを立て直す。幸いあさこまんの体調は回復していた。


今日はまずスタックした6番を回収して、1ピッチだけ登って、せっかくだからエルキャプスパイヤーに泊まろうとなった。そして、明日空荷でテフロンコーナー等行けるとこまで行って、またエルキャプスパイヤーで寝て、明後日懸垂下降で降りるというプランになった。

私が回収を試みるも全くびくともしない6番。諦めて茜ちゃんにパスしてなんとか回収してもらった。
続いて、エルキャプスパイヤーまでの1ピッチを茜ちゃんが登り、スパイヤー到着。(16ピッチ目)


今このトポでいう②のところ。

今日はここでのんびりしよう〜〜ってなっていると、なんとトミー・コールドウェル氏が登場!

伝説的なクライマーを前にみんな大興奮。記念写真も撮ってもらった!


アルコーブで知り合ったクライマーが、スパイヤーでの私たちの様子を写真に収めてくれた。行くまでが大変すぎるけどロケーション100点満点の五つ星ホテル。

DAY15
今日は、荷物は残置したまま空荷で上を目指す。目的としては、テフロンコーナーの下見。

17ピッチ目 5.11c~5.9

左のクラックを登る。ちなみに右にいるのは、スパイヤーの写真を撮ってくれたお兄さん。

あさこまんが朝イチから熱い登りを見せてくれた!粘って粘ってフォール。私もこの壁で恐怖に打ち勝って全力で登りたい…!と痺れた。

18ピッチ目 5.10b ~5.5
茜ちゃんがすんなり前半を抜けるが、なかなか到着の声が聞こえない。どうやらテフロンコーナーに繋がる終了点がわかりにくいようだ。

19ピッチ目 5.12a ~5.12d テフロンコーナー
核心。有名な名前のはずなのに、本当にここ…?という感じの見た目。というか、コーナーが見えない。まあ日も高いし、ちょっと涼しくなってからトライしようとのんびり雑談タイム。前述した通りスマホの充電がみんなギリギリなので写真は全然ない。

ようやく日が傾き始め、あさこまんが登り出す。が、おかしい、テフロンコーナーの下部にしては汚すぎるし上にコーナーらしきものが全く見えない。「あれ、これ、違うラインじゃない…?」という結論になって降りてきてテフロンコーナー探し笑。どうやら、ずっとテフロンコーナーだと思い込んでいたところよりももう少し左の方だったらしい…笑

左に移動。下からでは相変わらずコーナーが見えないが、気を取り直して再スタート。ノープロで結構な高さまで行き、ようやく1個目のプロテクションが取れた。しかしそこから上が悪すぎて越えられない。エイドでも抜けられないとのことで、またノープロのところをクライムダウン。

テフロンコーナー本体にお目にかかれなかったが、場所が頭に入っただけでも良かったと思おう。

スパイヤーに帰宅。 翌日は降りるだけなので、夜は女子会。スパイヤーで呑気に女子会したの私たちだけなのでは…?!笑

DAY16
贅沢にもスパイヤーに2泊もしてしまった。

目が覚めると目の前はこんな絶景。エルキャプの圧に負けないくらい強くなってまたここに来ようと胸に誓った。

合計12回、計6時間ほどの懸垂下降と荷下げ。
どこかにスタックしないよう祈りながらロープを抜く瞬間が1番怖かったが、幸いどこにもスタックせずスムーズに降りることができ、無事に地上へ。


ド敗退だけど、やっと地上!やっとハーネス脱げる!やっとセルフビレイいらない!!!最高! 垂直移動の日々から解放され、地面を歩ける喜びを噛み締める。

DAY17
キャンプ4に引っ越しして、お疲れ様会。この日からは日本人クライマーやエルキャプで知り合った海外クライマーらと、キャンプファイヤーとお酒で最高に楽しい毎晩。あーー今思い出しても楽しかった!



DAY18
この日はEl Cap Baseでのんびりクラックを登る。名前の通りエルキャプの麓なので、上を見上げるとエルキャプが聳え立つ素敵なエリア。

Moby Dick, Center 5.10a


Ahab 5.10b

DAY19
マリポサの街へ行き、初めての観光DAY。


DAY20・21
色んな想いの詰まったエルキャプとお別れの日。

左にエルキャプ、右奥にノーズが見える。

ロサンゼルスまで茜ちゃんと車で移動し、帰国。



あっという間の3週間だった。 行く前から分かりきったことではあったが、弱すぎた。登攀力はもちろん、メンタルも。 実は、行く前に、フリーライダーに行ったらクライミングが嫌いになっちゃうんじゃないかと真剣に心配していた。幸い嫌いにはならなかったが、すごく疲れた。遠征の間ずっと心が全然ついてこなかった。思うように出しきれない日々で、悔しく悲しかった。

でも力強く美しいエルキャプを、いつか必ず登りたい。あの壁の1番上に立ちたい。20代の目標だ。本当にエルキャプで過ごした時間は、エルキャプで感じた悔しさは、全部夢のよう。すべては大切に胸にしまって、強くなります。


世に出すのが恥ずかしい敗退記ですが、もし最後まで読んでいただいた方がいらっしゃるのであれば、本当にありがとうございます。


寺井杏雛