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Squamishでの暮らし #10 「クマとの共存」という目標
2025-08-12 (ANJUブログ)

最近スコーミッシュ、チーフのボルダーエリアが ”Food-conditioned bear”(食糧に慣れてしまったクマ)の出現によって約1週間、封鎖されました。
チーフ周辺で、ボルダリングができないだけでなく、一部のマルチピッチの取り付きやアプローチも封鎖対象となりました。

これらボルダーエリア封鎖の情報等は、以下のリンクから随時更新されていますので、ご確認ください。
・District of Squamish
・Squamish Access Society
ちょうど日本でもヒグマに襲われた事件が発生しています。
今回はスコーミッシュに訪れる人に必ず知っておいていただきたいクマのお話です。
スコーミッシュにやってきて、クマをすごく身近に感じます。それは私たちが森のすぐそばに暮らしているから。
そして、ここではクマは恐怖の対象ではなく、共存を目指す存在です。
森は私たち人間のためのものではありません。
たくさんの生き物が住み、クマも住んでいます。
私たち人間もそんな豊かなブリティッシュ・コロンビアの森で遊ばせてもらっている生き物。
だからこそ、ここカナダBC州では、クマとの共存を目指しています。
クマを駆除するのではなく、一緒に生きていく。
そのために、スコーミッシュではいくつかの工夫があり、人間が守るべきルールがありますので、お伝えします。
スコーミッシュに住むクマ ➖ ブラックベア
まず、スコーミッシュにいるのは、ブラックベアという種類のクマです。子連れや驚いた際には攻撃的になることもありますが、基本的には温厚で臆病なクマです。本ブログでBC州が共存を目指すクマ=ブラックベアになります。
日本で最近死亡事故が起きてしまったのはヒグマ。本州や四国にいるのはツキノワグマですね。
特にヒグマは攻撃性が高く、ツキノワグマも時に攻撃的です。
ちなみに、北米にもグリズリーという種類のヒグマがおり、グリズリーは非常に危険視されています。
私は日本でクマに接近したことがないので、これはあくまで推測に過ぎませんが、ブラックベアが一番温厚なのではないかと思います。
だからといって、ブラックベアに近づいてはいけません。
この写真はちょうど、このクマブログを書いているときに家の前に現れたクマ。

写真は家の中から撮ったものですが、私はちょうど家の外で会いました。クマと私を隔てるものは何もありません。
マウンテンバイクをしていると、森の奥へ奥へと入っていくのでよくクマに会いますが、住宅地で会うのは初めて。子グマの可愛さに悶絶しながら、クマに刺激を与えないように、静かにその場を離れました。
これはスコーミッシュにいると珍しくはないこと。
しかし、クマが現れたからといって、街やキャンプ場が封鎖されることはありません。

一応こんなふうに注意書きはされます。
クマを守るためのルール
さて、本題です。これだけクマが身近でも、クマが襲ってこない、あるいは人に近づいてこないのにはちゃんとした訳があります。それは、人間とクマが必要以上に近づかないためにルールがあるから。
ルールはシンプルです。人間の食べ物をクマに与えないこと。
そのために、食べ物や匂いのあるゴミは全て熊が開けられないようにロックのついたゴミ箱に捨てます。

キャンプ場では、必ず、食料や匂いのあるものはベアボックスか車に収納します。
テントに食糧・匂いのある物を入れることは禁止されています。

チーフのキャンプグラウンドではこういったベアボックスがテントサイトの近くにあります。
テントサイトごとに入れる場所が決まっているわけではないので、他のキャンパーとスペースを分け合いながら食糧等を収納しましょう。

このように、取手の奥に手を入れて、指でロックを押し上げるとロックが解除される仕組みです。
クライミングやハイキング中にも、食糧を放置したり、食べ残しやゴミのポイ捨ては絶対にやめましょう。
先ほどの住宅街に現れた写真のクマは、食糧を探しにやってきています。
なので、しっかり各所がゴミにロックをかけることで、クマは食べるものがないとわかりまた森へ帰っていくのです。
”Food-conditioned bear”(食糧に慣れてしまったクマ)はどうなるのか
以上のルールがあっても、ルールを守れない人がいます。クマが人間の食糧を一度食べてしまうと、何度もそこに食べ物を求めて現れるようになったり、そのエリアに居座ってしまいます。そうなると、私たち人間の安全が担保されなくなってしまうので、本当に悲しいことですが、
クマは殺されてしまいます。
2021年にスコーミッシュ近郊のキャットレイクのキャンプサイトに現れたクマが食糧を漁るようになってしまい、捕獲し安楽死させたということも発生しています。実際のニュースはこちら。
冒頭に書いた、チーフのボルダーエリア封鎖のクマに関してですが、あのクマは人間の食べ物を食べてしまった”Food-conditioned bear”。詳細は発表されていませんが、ボルダーエリアで食糧をあさってしまった可能性が高いです。まだ殺されたというニュースは耳に入ってきませんが、殺されるのではないかという声もあります。
私たちが最低限のルールを守らないことで、大切な命が奪われてしまうのです。
日本にいると、「人間の命を守らなければ」という感覚になります。「クマ=悪」と感じる人もいるでしょう。
もちろん私はその感覚を否定しません。クマの種類も、クマとの距離感も、クマに対する考え方も違うのだから。
でも、ここBC州では「クマを守るため」そして「私たち自身を守るため」に、シンプルなルールがあり、そのルールは実際に機能しています。
郷に入っては郷に従え。
BC州に訪れる人は必ずこのルールを守りましょう。
そして、日本でも、クマと人間、双方の安全が担保されるような工夫がなされたらいいなと思います。
私にできることを、この国からしっかり学ぼうと思います。
余談ですが…
先述した通り、マウンテンバイクに乗っているとよくクマに会います。そして、この2ヶ月でバイク中にクマにあった4回のうち、3回が親子グマでした。これはペンバートンのトレイル脇の線路であった親子グマ。

こちらはウィスラーにあるバイクパーク(冬はスキー場)に住むクマたち。

最初はクマの生息地にバイクパークを作ったの!?と驚いていましたが、どうやら母グマはあえてバイクパークに住んでいるようです。
というのも、オスグマは縄張り意識が強く、時に子グマを襲う、母グマにとって脅威の存在。しかし、オスグマは人間を嫌い、人のいるところに近づかない傾向にあるそうです。なので、母グマは子グマを守るためにあえてオスグマが近づかない人の近くに暮らしているんだそうです。すごく興味深い戦略ですよね。
どうか、これからも、この地で、人間とクマが接触しすぎることなく、適切な距離で共存できますように。
そして、たとえヒグマだとしても、彼らも美しいこの星で力強く生きる生き物。
どうか、みんなが平和に暮らせる世界を作れますように。
写真は7年前に北海道で船の上から見たヒグマの親子。

では、また。
寺井杏雛